Q.
定期借家契約とは、どのような契約でしょうか?
A.
従来からの伝統的な普通借家契約においては、大家(賃貸人)は正当事由がないと店子(賃借人)の契約更新を拒絶できず(借地借家法28条)、したがって一旦借家契約が締結されると大家がその物件の返還を求めるのには多大な困難が伴うのが通常でした。多額の立退料が必要になるわけです。
そこで大家は、物件が遊んでいても他人に貸すのを控えたり、あるいは必要以上に多額の賃料や保証金などを要求したりするようになり、このことが良質な借家の供給を阻害して国民経済上の損失となっているとの指摘がなされてきました。そこで、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が成立し、同法5条により”大家に正当事由がなくとも期間の満了により契約が終了する借家契約”が借地借家法に新設されました(同法38条)。これがいわゆる定期借家契約であり、平成12年3月1日から施行されています。
従来も”転勤等による一定期間不在中の賃貸借(同法旧38条)”という特別の場合の定期借家契約は認められていました。今回の改正ではこれを発展的に解消し、より一般的に定期借家契約の締結を認めることとしたのです。
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Q.
定期借家契約の締結は、具体的にはどのように行えばよいのでしょうか?
A.
定期借家契約の成立には、以下の3要件が必要です。その他は従来の賃貸借契約と同様です。
(1) 期間の定めある建物賃貸借であること
(2) 書面による契約であること
(3) 大家が予め書面を交付して説明義務を尽くしたこと
(1) 
一定期間の満了で確定的に終了する契約である以上、契約締結の時にその期間を明確にする必要があるわけです。なお、従来からの普通借家契約の場合は1年未満の期間を定めた契約は期間を定めない契約とみなされました(同法29条1項)。しかし定期借家契約の場合には、契約期間を1年未満とすることも可能です(同法38条1項後段)。
(2) 
一定期間の満了で確定的に終了して更新がない契約ですから、従来の普通賃貸借契約の場合に比べて店子の地位に格段の差異があり、店子がそのことを十分に理解せずに契約をすると思わぬ損害を被るおそれがあります。そこで、契約締結は書面でしなければならないこととされました。なお、法文上に「公正証書」が挙げられていますが、これは例示であって、必ずしも公正証書による必要はありません。契約書があれば足ります。これは、賃貸借契約が本来口頭で行っても構わないために敢えて法文に書かれたことですが、口頭で賃貸借契約をすることが殆ど見受けられない実社会からすればあまり意味のない要件と言えるのではないでしょうか。
(3) 
(2)と同様の趣旨で、”一定期間の満了で確定的に終了して更新がない”ことを書面に記載し、これを大家が店子に交付して説明することが要求されます(同法38条2項)。この書面は契約書とは別個に作成されるべきでしょう。そして大家がこの書面を交付しなかった場合には、定期借家契約ではなく普通借家契約が成立し、更新拒絶に正当事由が要求されることとなります(同法38条3項)。したがって大家としては、書面を交付した際に必ず受領証を貰うべきでしょう。
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Q.
店子が現在住んでいる建物について、従来の普通借家契約を合意解除して、定期借家契約に改めて契約することはできますか?
A.
居住用の建物については、当分の間、合意解除によって定期借家契約へ移行することは認められません(特措法附則2条)。「当分の間」が具体的にいつまでかは、今後の立法措置などを待つことになります。既に述べたように、定期借家契約は従来の普通賃貸借契約の場合に比べて店子の地位に格段の差異があり、店子がそのことを十分理解せずに契約をする場合には不測の損害を被ることが懸念されます。
そこで、居住用建物に限り、当分の間、上記のような合意解除・契約内容変更を認めないこととしました。生活の根幹をなす居住用建物の契約のみを保護する趣旨ですから、そもそも契約の目的が店舗用などである場合、目的が居住用でも実際には居住に使用されていない場合などはこれに該当しません。また、居住用建物でも、改めてする定期借家契約の目的が店舗用などである場合も該当しません。
なお合意解除後引き続き契約するのではなくて、合意解除後相当期間経過後に再契約する場合も該当しません。この規定に反した合意解除・定期借家契約締結がなされた場合には、新契約は普通借家契約となり、更新拒絶に正当事由が要求されます。
Q.
定期借家契約は、契約期間満了によって当然に終了するのですか?
A.
定期借家契約を、契約期間満了と同時に終了させるには、”契約期間満了一定期間前の予告通知”が必要になります。借家契約期間は長期にわたるのが通常であるため、借家契約の期間中に店子が期間満了時期を忘れてしまうことも懸念されます。そのような場合に突然大家から期間満了による明渡請求がなされて直ちに出ていかなければならなくなるとすると、店子には非常に過なこととなりかねません。
そこで定期借家制度を導入する他方で、店子の保護の観点から、契約期間満了を店子に予告しなければならないとしたのです。なお、契約期間1年未満の定期借家契約においては、店子が期間満了を忘れる危険性が一般的にないため、通知は不要とされ、期間満了のみによって契約は終了します。
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Q.
契約期間満了一定期間前とは、具体的にどのような期間なのですか?
A.
通知をすべき契約期間満了前の一定期間とは、契約期間満了の1年前から6ヶ月前までです。例えば、平成13年1月1日から平成15年12月31日までの2年間を契約期間とする定期借家契約であれば、平成14年12月31日から平成15年6月30日までの間に店子に通知が到達しなければなりません。
通知を不要としたり通知期間の終期を遅くする特約(「1年前から3ヶ月前までに」)などは、店子に不利な特約として法律上無効となります。
また、通知期間の始期を早くする特約(例えば「3年前から6ヶ月前まで」)もやはり無効と思われます。なぜなら、例えば契約期間満了の5年前などにした予告通知でも有効とすると、予告通知の後に再び店子が期間満了時期を忘れてしまいかねず、予告通知を要求した趣旨を損なうからです。
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Q.
予告通知は、どのように書けばよいのですか?
A.
予告通知には、店子を宛先、大家を差出人として、以下のように書けばよいでしょう。
「あなたとの間の『*市*町*番地*荘1号』の賃貸借契約は、平成 年 月 日に期間満了によって終了しますので、同日限り明け渡して下さい。
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Q.
予告通知をしないまま契約期間満了の6ヶ月前が過ぎてしまったら、どうなりますか?
A.
大家は、契約期間が満了しても店子に明け渡しを求めることが出来ません。もっとも通知期間経過後に通知をした場合でも、通知の日から6ヶ月を経過すれば明け渡しを求めることが出来ます。
例えば期間満了日が平成15年12月31日なのに、平成15年9月30日になって初めて通知をした場合でも、平成16年4月1日になれば明け渡しを求めることが出来るわけです。
しかし大家としては、少なくとも契約期間満了前(例題では平成15年12月31日まで)には必ず通知をするようにしましょう。なぜなら、契約期間満了後に通知した場合の効果については法文上必ずしも明らかでなく、契約期間満了までに予告通知がなされなかった場合には、その時点から定期借家契約が普通借家契約として更新される、とする考え方もあります。この考え方によれば、予告通知をせずに契約期間満了して閉まった場合に、明け渡しを求めるには正当事由が必要となってしまいます。この問題の決着は、後日、具体的な紛争が生じた場合に裁判所が判断することとなりますが、それまでは慎重に対処する必要があるのです。
Copyright(C)弁護士 安藤信彦(2000)
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