# 著作物−総論−芸術性

 

 記入すべき部分が空欄となっているシンプルな請求書は、著作物とは言えない可能性が強いと思われ、著作権侵害になる可能性は低いと思われます。

一方、基本契約書は、作成者の考え方が具現化されているとも言えますから、著作物となる可能性が高いのではないでしょうか。

何れにしても、著作物にあたるか否かは必ずしも容易な判断ではありませんので、少なくともデッドコピーは避けることが賢明と思われます。

 

〜〜〜 補足説明 〜〜〜

 

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術または音楽の範囲に属するもの」を言います(著作権法2条1項1号)。

著作権法10条1項は9個の著作物を列挙していますが(言語、音楽、舞踊、美術、建築、図形、映画、写真、プログラム)、これらは著作物の例示列挙です。

したがって、そこに列挙されていなくとも、著作権法2条1項1号に定められている各要件(@思想性、A創作性、B表現化、C芸術性)を充足すれば、著作物として保護されます。

また一方、一見10条1項の著作物に当たるかに見えても、2条1項1号の各要件を充足しないものは、著作物として保護されません。

本件で問題となるのは、「文芸、学術または音楽の範囲に属するもの」(C)と言えるかです。

 

著作物といえるためには、「文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する」ことが必要です。もっともこれは「知的・文化的な包括概念の範囲に属するもの」という程度の趣旨です。

この要件に関連した裁判例には、以下のものがあります。

@ 船荷証券事件(東京地裁昭和40831日判決)

「被告がその海上物品運送取引に使用する目的でその作成を原告に依頼した船荷証券の用紙である。それは被告が後日依頼者との間に海上物品運送取引契約を締結するに際してそこに記載された条項のうち空白部分を埋め、契約当事者双方が署名又は署名押印することによって契約締結のしるしとする契約書の草案に過ぎない。」「表示されているものは、被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示に過ぎないのであって、原告の思想はなんら表白されていないのである。従って、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない。原告が本件ビー・エルの契約条項の取捨選択にいかに研究努力を重ねたにせよ、その苦心努力は著作権保護の対象とはなり得ないのである」

以 上

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