# 著作物−総論−創作性

 

 御社がロゴマークとして採用した、四角形と三角形を組み合わせたようなシンプルな図形は、著作物とは言えない可能性が強いと思われ、著作権侵害である可能性は低いと思われます。

仮にその図解が登録商標である場合には商標権侵害になりますが、本件の場合はそのような問題もないようです。

もっとも、ある図形が著作物にあたるか否かは必ずしも容易な判断ではありませんので、少なくともデッドコピーは避けることが賢明と思われます。

 

〜〜〜 補足説明 〜〜〜

 

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術または音楽の範囲に属するもの」を言います(著作権法2条1項1号)。

著作権法10条1項は9個の著作物を列挙していますが(言語、音楽、舞踊、美術、建築、図形、映画、写真、プログラム)、これらは著作物の例示列挙です。

したがって、そこに列挙されていなくとも、著作権法2条1項1号に定められている各要件(@思想性、A創作性、B表現化、C芸術性)を充足すれば、著作物として保護されます。

また一方、一見10条1項の著作物に当たるかに見えても、2条1項1号の各要件を充足しないものは、著作物として保護されません。

本件で問題となるのは、「創作的に」(A)と言えるかです。

 

著作物といえるためには、それが「創作的に」表現されたものである必要があり、すなわち、表現に何らかの個性(クリエイディブなもの)が含まれていなければなりません。

 

美術の著作物に関しては、既存の美術作品を忠実に機械的に複製した写真等には、創作性は認められません。

この要件に関連した裁判例には、以下のものがあります。

@ オリンピック標章事件(東京地裁昭和昭和39925日判決)

「いわゆる五輪マークが『美術の範囲に属する著作物』に該当するか否かは、はなはだ問題であるが、それが比較的簡単な図案模様にすぎないと認められるので、直ちにこれを肯定するに躊躇せざるを得ず、消極的に解するものである。

@ 印刷書体事件(最高裁平成1297日判決)

「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない」

これは「印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり」不都合であるとの実態にも配慮された判決です。

 

建築の著作物に関しては、単に建築物であるばかりでなく、いわゆる建築芸術と見られるものでなければなりません。例えば、建築美を創作的に表現した宮殿、城、寺院、庭園などが「建築の著作物」にあたります。

この要件に関連した裁判例には、以下のものがあります。

@建物設計図事件(福島地裁平成349日決定)

「建築の著作物」においては、単に建築物であるばかりでなく、いわゆる建築芸術と見られるものでなければならない。その判断にあたっては、使い勝手のよさ等の実用性、機能性などではなく、もっぱら、その文化的精神性の表現としての建物の外観を中心に検討すべきである。

 

映画の著作物に関しては、単なる影像の連続にすぎないビデオテープやフィルムは「映画の著作物」にあたりません。例えば店内の風景を自動的に撮影した防犯カメラの記録影像などです。

 

写真の著作物に関しては、カメラの機械的作用に単に依存したもので、撮影者の個性が現れていないものは、「写真の著作物」にあたりません。

この要件に関連した裁判例には、以下のものがあります。

@ 真田広之ブロマイド事件(東京地裁昭和62710日判決)

「肖像写真は、静止した被写体をカメラで撮影し、その機械的、科学的作用を通じて被写体の表情等を再現するものであるが、かかる肖像写真であつても、被写体のもつ資質や魅力を最大限に引き出すため、被写体にポーズをとらせ、背景、照明による光の陰影あるいはカメラアングル等に工夫をこらすなどして、単なるカメラの機械的作用に依存することなく、撮影者の個性、創造性が現れている場合には、写真著作物として、著作権法の保護の対象になる・・・。ブロマイドが若年のフアン層を対象とする性格上、撮影に際し、被写体の特長をひきだすべく被写体にポーズ、表情をとらせ、背景や照明の具合いをみながらシヤツターチヤンスをうかがい、フアンの好みそうな表現のときをねらつて撮影を行つている・・・。本件写真は被告の営業として販売する意図のもとに製作されたものの、撮影者の個性、創造性を窺うことができ、証明書用の肖像写真のように単なるカメラの機械的作用によつて表現されるものとは異なり、写真著作物というに妨げない。」

以 上

CopyrightC)弁護士 安藤信彦(2006